結局のところ,「喉を開く」とは何か?

soluna-eureka-a.hatenablog.jp

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の続き的な感じである

声を構成する2つの要素

最近では,「声帯の使い方」と「喉頭の使い方」の2つに絞られる,と考えるようになった.
そして特定の環境・条件においては,声帯の使い方を拡張するために喉頭の使い方に制約が課される,といった条件が発生するのではないか?と思うようにもなってきた.

今回はその2つの間で成立する制約について,自分なりに整理した点を書き残しておく.

結論,「舌骨を下げれば良い」

なぜ「喉が閉まる」と辛いのか?

喉が閉まるということについて,端的に言えば気道が潰されることで息の通りが悪くなる,という解釈を昔からしていた.その後になって,喉頭の空間が狭くなることで響きが悪くなる,という解釈もまた存在するということを知ったのだが,さらにそこから年月が経ち,そして今回のように「声帯の使い方」と「喉頭の使い方」の2つの関係性という観点に帰着した.

輪状軟骨に着目する

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承前の通りに,輪状軟骨と甲状軟骨が稼働することによって,声帯のテンションを物理的に高めながらも厚みを減らせるわけである.これは人が声の音程を調整する上で無意識に動作していることであって,その領域を意識的に拡張していくことが歌唱の基礎である,というように私は考えている.
しかし甲状軟骨が前転するだけならばともかく,場合によっては輪状軟骨が後転することがある.

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そして輪状軟骨は気管と靭帯で直結しており,すなわち輪状軟骨が後転すると気管まで引っ張り上げられることがわかる.

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ではなぜそうなるのか?それは

  • 輪状軟骨は随意的・選択的に固定できないこと
  • 接続する甲状軟骨の可動域に制限があること

という事実から帰着して得られるだろう.

輪状軟骨は固定できない

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輪状軟骨に接続する筋肉といえば,声帯にテンションを与えることでおなじみ輪状甲状筋があるが,下咽頭収縮筋の一部も存在している.そしてこれは食道をも全て巻き込んで収縮する筋肉であり,すなわち誤嚥に対して嘔吐を反射的に実行する際に担う器官であると推測できる.
こんなものは随意的・選択的に動かせないし,動かせるもんならそれは嘔吐する時である.私自身もまた先の記事で

そのまま裏声を出していくと,hihiCあたりで喉頭に痛みが発生し音域が上に伸びなくなる.

と述べたが,これを無視して続行すると嘔吐反射が勝手に起きることを私自身も経験しており,輪状軟骨の可動域に限界があるということが窺える.今後,このように可動域の限界に近づく現象を「喉が閉まる」と呼称し,逆に限界から余裕がある方向を「喉が開く」と呼称したい.

即ち,どうすれば輪状軟骨の位置に余裕を持たせられる(喉を開ける)か,ということが歌唱の技術に含まれると考えられる.

甲状軟骨の可動域を探る

輪状軟骨と甲状軟骨の接続を説明した先の図においては,甲状軟骨・披裂軟骨と舌骨・喉頭蓋との接続も説明できる.

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なるほど,喉頭蓋から声帯までの区間は膜によって覆われるほか,その外側にある甲状軟骨と舌骨が靭帯によって接続されて,そして舌骨と喉頭蓋もまた靭帯で接続されていることがわかるだろう.これはつまり

  • 喉頭蓋と舌骨は一蓮托生
  • 甲状軟骨の位置は舌骨に依存

ということに他ならず,ここから

  • 甲状軟骨の可動域は舌骨に依存
  • 舌骨を下げると喉頭蓋も下がる
  • (被裂軟骨は上下にはあまり動かないだろうから無視して良さそう)

ことが推測されるだろう.

ではどうすればいいか?

つまり,舌骨を随意的に下げられれば,上記の問題は解決するのである.
舌骨を下げたまま甲状軟骨を下げて声帯のテンションを伸ばし,そのまま声を出せば良いだけなのだ.

「響きの向上」は副次的な効果

確かに喉頭蓋が上がると喉頭の空間が狭くなることで響きが悪くなる以上は,喉頭蓋を下げることで喉頭の空間を広げることもまた歌唱の技術である,といった解釈も正しいだろう.
しかし私の個人的な観点としては,それは声帯のテンションを上げようとする過程で得られる副次的な効果にすぎないのだろうという感覚である.むしろ人間が声色を判定する高次のフォルマント成分について考えれば,いかにして喉頭蓋から上のエリアで響きを改善できるか,が主題となるべきなのだ(ここではあまり扱わないが).

本当の問題は,これだけ舌骨と喉頭蓋を下げた状態で,本当に発音のフォルマントを維持できるかどうかにかかっている.こればかりはもう訓練するしかなく,私自身も当初は全く声にならなかったせいで,おっかなびっくり練習したような記憶がある.

なぜ発音が難しいのか

端的に言えば,舌骨に付随する筋肉や靭帯が多く,顎や頬といった発音に関わる器官への影響が無視できないためである.

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そもそも喉頭の条件が変わる以上,どうすれば認識できる発音になるかも(感覚的には)手探りで練習する必要があり,加えてその発音を実現するために無理をすれば靭帯どころか関節や骨が壊れることは想像に容易い.
上手くトレーニングできればきれいな発音を音域を両立できるのかもしれないが,最終的にはこれもまた才能やセンスであり,

  • 関節の位置
  • 靭帯の位置
  • 骨の形状
  • 筋力

の4拍子が揃わない限り難しい限りである.

無理はするな

ちょっと喉を開くことでちょっと音域が伸びる,本来はそんなもんでいいという話であって,誰しもがhiCを超えるハイトーンを出す必要はない.ここで痛めるくらいならそれより声帯をまず鍛えよう.