「正しい発声」ってなんだろう,ちょっと考えてみた③内喉頭のボイスビルディング

喉頭そのものについては

前の記事を見てくれ,ここにあらかた書いてある,喉がお好きなら先にこれを読破することをお勧めする

ボイスビルディングのアプローチ

以下,個人の見解を交えてお送りします 量が多いので追記していきます

声を作る

声というものは当然ながら生まれ持った個性(喉頭や口腔の形状,声帯の質,東塔の遺伝的要素)が大きく影響を与えるが,しかし技術や経験によっても左右される場面も大きい.むしろ芸術として声と向き合うなら技術と経験が必須であり,そもそも様々な努力(無意識的な癖も含めて)もなしに何かができる人間なんてそうそういないじゃないだろうか…
ということで,コレからは維持性・合理性・パフォーマンス性・楽しさという観点を守りつつ,どうやって声を出していこうかについて書き出していく.

ボイス"トレーニング"ではなくボイス"ビルディング"

まず声域を広げたいといのいちばんに思ってこのページに来てくださった方へ,真っ先に言わねばならないことがある.
当然だが内喉頭といえば声帯を司る声の心臓部であり,声の原音を発生させる機関をどうにか改善しようとすれば,必然に声域を広げることにも繋がる…はずである.
確かに声域は広い方が良い分には間違いないし,歌えるメロディや表現できる声色のレパートリーの増加は間違い無く芸術のインスピレーションの成長に繋がる.自分が出せない音について何かを閃く,これは早々にできることではないだろう…

しかしあらゆるトレーニングの大前提として日常の行為から改善していくのが最も基本的なスジであり,まして発声という人間が普段からやっているような行為に取り掛かるためには,それこそ普段からの声質にこそ向き合うべきだ.
もしそこに問題があり続ける限りは,声域を広げるどころかその声を一生に渡って維持することすら難しいだろう.例え声域が伸びたとしても,維持性・合理性・パフォーマンス性・楽しさの追求を怠れば無理が祟り,声そのものを喪失する.

だから声域を広げるというのは声質の次に来てくれる話である.つまり日常を見直し一から積み立てて行かねばならないために,ボイスビルディングという呼称を使用したいと考えている.
なんだボディビルディングのつもりかよと言われると,確かにこれは実際にはボディビルディングに近いと言わざるを得ない.というよりも喉頭だって体の一部なので極論これもボディビルディングである.Q.E.D

そもそも声の界隈というのは,声に命を懸けて生きるプロが声のトレーナーのプロに自分の声を預けるような場所なのだ,本当に声に命を懸けたいならこんな記事には頼らずに,今すぐに経験豊富な事務所の元に行くべきなのだ…


声域には興味ないねという方へ,そんな方がこのページに来てくださった動機としてはまさに日常の行為としての発声における声質の改善であると思っているので,改めて日常の積み立てとしてのボイスビルディングに励んでいただければ幸いである.
また今の時点では上記のくだりは読み飛ばして結構だが,万が一に声域に興味を抱いてしまった場合は十分に注意していただきたい.人間の好奇心とそこからくる意思の大きさを甘く見ていると,度を過ぎた行為が何もかもを無に帰し全てが後の祭りとなってしまうことも多々ある.

ところで声に致命的な問題を抱えているなら,前の前の記事に書いてある通りに,真っ先にしかるべき機関を受診していただきたい.

努力が必要か

もし今の声で良いならばボイスビルディングをやる必要は全くない,と事前に注意書きを用意したい程度には確かに努力が必要である.切欠や根拠や論理こそ何だって良いが,年単位で努力を継続できるだけの環境を用意するべきである.

特に自分に途轍もない才能があり数週間で劇的に進化できるといった幻想に可能性を賭けるのは危険であり,その上で自分の悪い癖を修正しようとなれば尚更に(心技体の全ての面において)難しくなる.もちろん発声という根源的な行為だから難しいんだとも言えるし,例え何かを習得したとしてもそれを継続できなければ,こと発声においては習得した意味がなくなってしまう.

しかし同時にボイスビルディングは芸術を抜きにして日常という一面だけ考えてもお釣りが来る程度には有益性が高いと考えている.むしろ芸術を追求する必要性が存在しない,維持性・合理性・パフォーマンス性・楽しさを今後の人生で使う声にもたらすべく努力を投資する,という状況だけでも十分ではないだろうか?
それ故に,今後の人生のためにも私は長期的な努力を投資してでもボイスビルディングを検討することをお勧めしている.

しかしこと発声において異常な苦痛を強いるような努力というのは大抵は間違っている(というかやめた方がいい).例え疲れを感じることがあっても,致命的な異常が発生するわけがないし発生していいわけがない.
確かに世の中にはそういう努力をせねばならない場面というものも存在しているとは思うが,発声は決してそういう場面ではないはずだ.

声域と努力

稀に自然と声域が広がったように感じている人間がいる(私もその類で17歳ごろから急に上に伸び始めた)が,しかし実際は意識せずとも相応の訓練を行なっていた(私は音楽室を借りてお目当ての曲を聴き込みながらピアノと声で耳コピをしまくっていた)結果である場合が多いと思われる.
そもそも何の努力をしていないのに声域が広がるわけがないだろう.性転換術に伴うホルモン注射や声帯伸長やで声域が上がることこそあれど,一切の外的な影響力を用いず内的な影響力のみで声域が上下に広がる状況において,もし鍛錬以外の要因があったら余りに恐怖すべきことであろう.

故にもし声域を広げたければ,ボイスビルディングの期間は一生に渡って続くものだと考えるべきである,つまり一生をかけて声を鍛錬していくのだ.
しかし声域を広げたくなるような人間はどうせ一生に渡って声を使う芸術と同居し続けるだろうし,これはもう今更すぎる話じゃないかと思う節はあるが….

そして実はボイスビルディングにおいて最も注意すべき人間こそ,自然と声域が広がったように感じているタイプなのではないかと考えている.
極論を言えばそういうタイプは普段から感覚的に発声を行なう癖がつきやすいため,自己分析と自己評価について無心になりがちになり,フィードバックもうまく行えない.おまけに一から行うボイスビルディングにも手を出す必要性を感じないため,自分の声を理解しないまま事態だけが悪化し続け,やがて異常な負荷が原因となり声そのものを喪失する.
(なんせ私自身がそのような事態になりかけた,こんな長ったらしい記事を書くようになっている時点で過去に私に何が起きかけたのか,もはや言うまでもないだろうが…半年前から声に謎の雑音が入り始め,音程が取り辛くなったのだ…)

そもそも声域が自然と広がった時点であなたは周囲に比べて既にアドバンテージを獲得しているのだ,そこで今一度だけ立ち止まって自分の声を見直し,理解を深めてみてはいかがだろうか?
事態の悪化が手遅れになる前に,何より声を今より良いものにするべく,ボイスビルディングの手順を踏んで改善手法を見つけたいものである.

声質と努力

そしてボイスビルディングの9割はそもそもこの一点に集約されるのではないかと思う,なぜならば声質を自由自在に操れる時点でそれは内喉頭の操作の練度が高い事を意味しているからである.そして操作の練度が高くなれば鍛錬もより捗り,その果てには音域も自然に広がっていくのではないかと考えられる.
また他人と発声を伴う会話を行う場合,声質が自分そのもののアイデンティティ となる事を考慮するべきである.このご時世に流行っているのオンラインミーティングにおいても尚更で,いかにして豊かな会話を行うかという点において声質は非常に重要なファクターとなる.

声変わりとボイスビルディング

もしかすると声変わりの真っ最中や声変わりがまだ来ない方,もしくはそういった子供をお持ちのご家庭の皆さんがこのページに来てくださったかもしれないという可能性もあるので,声変わりについても触れておこうと思う.

男女に関わらず人間の宿命として成長の過程で発生する現象が声変わりであり,一般には肉体の成長と共に声が低くなるような現象だと一般には理解されている.
しかし実際は声帯が太く長くなるだけにはとどまらず,咽頭の構造そのものが大きく変化することで音高に限らず声色にも変化がもたらされ,結果として声が低く性差がはっきりわかれたと感じられるようになる.

声変わりに関する実際の資料としてこちらを参照されたい.人間は声色や言語的な発音を聴き分ける際に,周波数帯域で見た際の強度のばらつきのピーク(フォルマントと呼ぶ)について,それがどこに存在しどう移動するかを知覚している.
具体的にはこちらのように,性差は第1・第2フォルマントの絶対的な高さ・母音は第1・第2フォルマントの相対的な差によって決定され,喉頭の形状で性差が・口腔の形状で母音が決定する,とされている(個人的にはまだ謎が多いと思っている).

このように多くの要素が変化していく声変わりの真っ只中にいる方は,トラブルを避けるためにもボイスビルディングに取り組むのは止めるべきであろう.更に私個人の強い思想としては声変わり前の人間もボイスビルディングに取り組むのは控えるべきであり,男性ならば尚更に声変わりの期間においては徹底的に喉を保護せねばならないと思っている.

声変わりに起因する症状はいずれも変声障害と呼称され,どうしても声が掠れたり裏返ったり声が低くならなかったりという内容が多く,またほとんどは男性に症状が現れる(女性にも稀に現れるらしい).
詳しい事例は変声障害と調べれば数多くヒットするが,治療方法も状況に応じてトレーニングから投薬・手術まで様々である.例えば声変わりが感覚的にしなかったという事例であっても,頻繁な声の裏返りが発生するために治療を行う(喉頭は発育している)のか,それとも声自体を低くする(喉頭が発育していない)のか,という状況がそれぞれ存在し,心理的な要因を仮定して発声練習を行うような段階から喉頭を切開し物理的に声を低くする段階まである.

そのようなトラブルが起こり得るような状況で負担を感じるような発声は控えるべきだと考えるのが妥当であろう.そもそも運動部にありがちな部活動の声援も音楽の授業の合唱も変声期にやるべきことではなく,身体的な原因だけではなく心理的な原因をも誘発し変声障害を発生させるする要因だと考えざるを得ない.もちろん成長ホルモンの不調によってトラブルが発生する可能性だってあり,とにかく声変わりはあまりに繊細な成長の一つであると言える.
綺麗に声変わりをしてからでもボイスビルディングは遅くないし,何より社会全体がもっと声変わりに気を使うべきではないだろうか…?

私の声変わり体験

(参考程度に)
私の場合は12歳で声変わりが来たが,それはある日に何の前触れもなく一切声が出なくなり,その状況が8日間ほど続いたのが声変わりの期間であった.
同時に体も心なしか火照ってしんどく半ば風邪のような感覚があり,最初は風邪のせいで声が枯れたのではないかと考え,マスクの着用と共に発声を禁じて普段よりも長く体を寝かせていた.
9日後から徐々に発声ができるようになっていたが,その時には明らかに差を自覚できるほどに声が低くなっており,これが声変わりだとその時にようやく気づいた…もとから声は低い方ではあったがこれを機に更に低くなり,当時は国家がまともに歌えないレベルにまで到達したや〜い非国民
なお以前から無意識的に裏声は使えていたが,この期間から更に1週間が経過するまでは裏声が出せなかった.そして内喉頭の形状の変化は17歳ごろまで続き,奇しくもその直後から声域が上に伸び始めた.

…といった自身の経験があるため,声変わりで声が低くなったら二度と高い声が出なくなるのは迷信であると確信しているし(それでも以前の声が出せるわけではないが),声変わりの期間はやりすぎな程に喉頭を保護するべきだと思っている.
もちろんこれは私の当初の勘違いが偶然にもベストな対処に繋がった超絶幸運な事例であるし,一般的には徐々に声変わりが進行するらしいのでこのように短期間の急激な変化に集中して対応できるケースは超絶レアであろう.
そのためこれは参考にすらならないかもしれないが,これくらいの対処を実行する覚悟は誰しもにあって欲しいと望んでいる.

ボイスビルディングのメニュー

練習に使えると思った曲

第九・第四楽章・例の合唱

  • 言わずと知れた正月の風物詩
  • エヴァを知っているなら歌えるはず
    • 3EM27はオタクの必修科目

ポイント

  • うまい手本が大量に揃っている
    • おまけに西洋声楽に準拠している
  • そこの部分だけは究極的に覚えやすい
  • バスとテノールの標準的な音域をカバーしているので両方やってみよう
    • なおテノールの音飛びが鬼畜すぎる,私の見間違いではなければhiF♯を要求しているので,最初は普通にバスとユニゾンでオク上がいいと思う
  • ドイツ語の発音は滑舌練習に使えると思う,言語としての優劣は置いといて

参考資料

桜木町

ポイント

  • 覚えやすいメロディライン
  • 北川パートと岩沢パートで練習できて二度美味しい
    • 最高音はhiCなので岩沢にしては優しい
    • おそらくミドルボイスがガンギマリしている岩沢ボイスと比較的には一般よりの北川ボイス,一人二役を頑張れば嫌でも声の柔軟性が鍛えられる

参考資料

  • 曲を買って聴き込もう

THE HERO!! ~怒れる拳に火をつけろ~

ポイント

  • 基本のメロディはmid2DからhiBまでに収まっている
    • その癖して最後のシャウトはhiF♯である,シャウトボイスの練習にはもってこい
    • 確かハモリのメロディの最高音はhiDだった気がする,挑戦してもOK
  • テンポも早く滑舌も要求される,いかに無駄な力を抜くかの勝負
  • 題材が題材なので崩した発声で歌唱に味付けしても良い
  • セリフまでやると休む時間が全くないのでスタミナ強化にも効果的
  • そもそもJAM Projectは化け物なので,化け物が担当するトラックを化け物のように歌おうとすれば,必然的に化け物を目指すトレーニングが行える
    • でも全ての面において全く勝てる気がしないんだが?

参考資料

  • 曲を買って聴き込もう

インフェルノ


次回④

喉頭について…ですかねぇ…