「正しい発声」ってなんだろう,ちょっと考えてみた②内喉頭の紹介

喉頭の概要

こんな構造になっている f:id:Soluna_Eureka:20200803195532p:plain f:id:Soluna_Eureka:20200803195839p:plain ここからお借りした

パーツ紹介

骨☠️

甲状軟骨

いわゆる喉仏で手で触れる,コイツに声帯(らへんの筋肉)が付随している.
コイツが動くと声帯も動くし,逆に言えば声帯の張力を直に引き受けてるのもコイツ,あと輪状軟骨が結果的に引き受けていたりもする.
そしてコイツはよく動く,生まれたままだと意識的に動く人と動かない人がいるだろうけど,訓練すればほぼ動くと思って間違いない.

輪状軟骨

喉仏の下にある輪っかの軟骨で気管の入り口でもあり,気管軟骨とは靭帯で繋がっているためまず動かないし意識されない.
訂正:輪状軟骨は上下方向は割と柔軟に動く,というか私はかなり動く人である.
声の出し方によって様々なポジションに移動する,靭帯で繋がっているのに…

そしてコイツに被裂軟骨と甲状軟骨が接続されており,甲状軟骨とは筋肉で結ばれているが故に喉仏は動くものの,被裂軟骨とはただくっついているだけである.
なおその被裂軟骨との接続部は関節包というもので支えられている,そりゃあよく動くからねぇ…

被裂軟骨

卑劣軟骨声帯に直接関わる筋肉が全てここにくっついている.
声帯の開閉や声質の調整に使われるパワーの架け橋である.
よく勘違いが起きる点として,コイツは輪状軟骨との関節を中心軸として回転し声帯を閉鎖する,決してスライド式ではない.
そのためその動作として声門閉鎖時には内転・声門開放時には外転と呼ばれる,もちろん気管の中央を基準として考えている.
起きうる障害があるとすれば,例えば口経由の気管挿管はちょうど管が喉頭を通過するので,その際に希に被裂軟骨が脱臼するらしい,こっわ…
(こんな記事を見つけたので)

喉頭蓋軟骨

要するに喉頭蓋の実体であり,コイツが動いてくれているおかげで食物と空気の分離が可能となっている.
またコイツを上手く開くと鼻腔の方に声がよく通るので響きが良くなると言われているが真偽は知らん.
あくまで軟口蓋とは別モノ…ところでこれなんで軟口蓋って言うんだろ,咽頭蓋の方がいいだろ…

舌骨

顎の奥にあるU字型の骨で手で触れる,顎骨格や頭蓋骨や甲状軟骨や鎖骨とを結ぶ筋肉が走っている.
こいつも動くが,内喉頭からは話が逸れてしまうので細かいところはパス.

膜or靭帯🦴

甲状舌骨膜

舌骨と甲状軟骨の間は膜で覆われている,このおかげで外部からの異物の侵入が防げたり甲状軟骨の脱落が防げたりしている.
手で触れるが,この奥に喉頭蓋軟骨が存在する.

正中甲状輪状靭帯

甲状軟骨と輪状軟骨を結ぶ靭帯でど真ん中にに1つ存在する.
これも双方の脱落を防止していくれている.

輪状気管靭帯

輪状軟骨と気管軟骨を結ぶ靭帯で,実質的に喉頭の最深部の要であり,これと甲状舌骨膜によって後頭部は懸架されている.

声帯靭帯

声帯筋の表面を覆っている靭帯,というより靭帯の扱いをされながら声門の役目を最も果たしている声の要.
コイツを直接的に操作しているのが声帯筋たる甲状被裂筋である,声帯筋の気分によって様々な周波数特性の原音が出せるが,基本的には長さや太さの個人差には抗えないので受け入れること.
ちなみにこの上にさらに表皮が被さっており,負荷に耐えかねて出血したり結節(ポリープ)ができたりすると悲惨なことになる.

筋肉💪

輪状甲状筋

輪状軟骨と甲状軟骨を結び甲状軟骨を思いっきり前傾させるVの字型の筋肉,別名は前筋であるがクッソ重要.
コイツだけ他の内喉頭筋とは所属する神経が異なっているが,声門筋だけでは実現しない発声に必要不可欠なパーツであり,鍛えて損はない.
しかし所属する神経が異なっている上に普段はあまり使われないため,発声と同時に動かすのに中々に慣れないっぽい.
具体的に何をするのかというと,声帯を物理的に引き伸ばす

甲状被裂筋

声の正体,声の本質,音の魔術装置,歌手の生命線,等々いくら二つ名を挙げてもキリがない.
別名は声帯筋,その名の通り声帯を唯一に直接に操る筋肉であり,真っ先に鍛えるべきであり衰えた際に最も声が出なくなってしまう筋肉.
コイツの力の掛け方によって多様な声色が出せるが,持っている声帯靭帯の形質を超えることは非常に難しい(というか不可能),性転換に伴う高音化手術を行っても声帯筋と声帯靭帯にはまず手が出せない.
それくらい繊細で高機能な筋肉であり,大事に扱いながらも鍛えるべし.

実は2種類に分かれている

詳細ない解剖イラストにおいては内側と外側の2種類があり,声帯に直接に作用し発声を制御する内側の甲状被裂筋のみを声帯筋とよぶことがある(ここを参照).
f:id:Soluna_Eureka:20200804225806p:plain じゃあ外側は何なんだという話だが,これだってもちろん発声の役に立っているものの,例えば誤嚥された障害物の排除に主に役立つのがこの外側である.
その上で内側の動作を確実に補佐してくれる存在なので,鍛え忘れてあげないようにしよう.

後輪状被裂筋

ここからは被裂軟骨に作用する筋肉の紹介になる.
コイツは唯一声門を開く(外転させる)ことができる筋肉で,つまり麻痺すると声帯が開かない(声帯外転不全と呼ぶ)状況に陥り,窒息回避のための措置(重度の麻痺症状の場合は気管切開)が取られる,こっわ….
原因は様々であるがほとんどは神経に原因があるほか,新生児にも声帯外転不全が見られる場合があり注意が必要.
(こんな記事を見つけたので)

横被裂筋(横筋),斜披裂筋(斜筋),外側輪状披裂筋(側筋)

厳密な動作が異なる3つまとめてしまったが,要するにいずれも披裂筋自体を閉じて(内転させて)発声を行なったり完全に閉じたりするための筋肉である.
声帯筋と同様に衰えると発声ができなくなる他,声門が持つ誤飲時の最終ゲートとしての役割が果たせなくなるため誤嚥性肺炎で○にやすくなる,だから発声訓練は健康的な長生きには有用なのである.
更に動作的な発声障害といえば内転に関わる筋肉の動作に問題が生じていることが多いので,鍛えて損はない…が,声帯筋と同様に不随意運動をするので意図的なトレーニングはやはり難しい.

粘膜

気道は粘膜に覆われており,様々な分泌液を大量に放出して外来病原体○すマンとなっている,これは粘膜防御機構とも呼ばれ(ここを参照),粘膜腺から一般的な分泌液を出すだけにとどまらずリンパから免疫グロブリン等をも出して生体を防御している.
しかしこの免疫機構が過度に働きかえって炎症を亢進する状態が発生してしまう場合もあり,慢性気管支炎はそのような状態の一種である…らしい.

区分的には口腔よりも気管に近い喉頭も例外ではなくその機構を持っており(ここを参照),食道との分岐点にあたるせいで特に負担がかかるためか,粘膜腺がよく発達する.
f:id:Soluna_Eureka:20200804220723p:plain だから悪い発声を続けたり何らかの傷害や病変に冒されたりすると簡単に粘膜が腫れ上がるし,過度の飲酒や喫煙なんかしたらそれこそ喉頭癌になるのは目に見えている.

もちろん参照先の通りにこんな形をしている喉頭なんだからこれは人間に特有の癌だという側面もあるが,それをわかっているなら尚更に喉頭を大事にするべきであるということは察するに余るだろう.
…うん,やはり過度の負担や乾燥はよくない,後世のためにも異常を感じたら直ちに練習を中止し回復を待つべきだと,ここではっきり主張しておこう.

ちなみに後述する仮声帯の肥大もこれによって発生していると考えられる,ひとたび肥大化すれば萎む希望はほぼないだろうし,西洋声楽が仮声帯の使用を否定したりデスボイスを拒絶する理由もよくわかる.

仮声帯について

どんなもの

解剖学的な知見ではとりあえずここを参照してほしい.
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喉頭前庭ヒダ・前庭ヒダ・室ヒダ・仮声帯と呼ばれる.室靱帯によりできたヒダ.喉頭室と喉頭前庭の間に位置する. (Feneis)

簡単に言うと,声帯の上にもう1つの何かしらの靭帯があり,そこにヒダが付随して突起として存在している.

役割

特に誤飲時の防御弁として役立っているほか,発声にも関連すると書く記事が後を絶たないが,同時に仮声帯の肥大による発声障害の事例も報告されている.

誤嚥防御体制の3段階の内で、喉頭蓋に次ぐ2番目の防御弁であるとのことだ。最後の防御弁は声帯で、空気以外の食物や液体が、気管に入るのを防ぐ役割を果たしている。 もしも誤嚥してしまったときは、声帯だけでなく仮声帯までも内転して閉鎖し、声門から下の気管内の圧力を発声時の10倍にも高めて、一気に開放することにより、咳嗽反射を起こし、異物を気管より上に、押し出す。

参考はココ,この方は阪大医学部出身の開業医(既に退役されたが)というガチ勢なので,この内容はほぼ確実に正しいと思われます.
(最終更新の2016年から今までにひっくり返るような研究が無い限りですが…)

仮声帯による発声障害

ここここ,,ここ,といったように仮声帯の構造のせいで発声に障害がおき,手術やリハビリによって改善したという事例が散見される.
あくまでこういったケースがあることを念頭においた上で,仮声帯を用いた発声は自己責任で行われたし
私としては他人に仮声帯を無理に使ってまで何かを表現することは推奨できないし,まず最初に声質や音域を改良したいのであれば,西洋の声楽的な知見に基づき仮声帯による発声は悪であると断じる方がマシであると考えている.

仮声帯が干渉する発声

ここにある(少し古いが)ように,様々なジャンルにおける歌唱時の喉頭の様子を観察すると,日本における謡曲浪曲の発声においては仮声帯の振動が付加され,喉声や不濁声と言われる嗄声が発生することが確認されている.
またこの性質を利用して,ここにあるように人工音声合成における表現手法の一つとして,仮声帯のモデリングが試みられている(ここではモンゴル系の喉歌についてであるが).

そういった意味では感情表現にすら使われるパーツではあり,しかし同時に仮声帯被厚による声帯や声道への悪影響も懸念されているため,やはり私個人としてはオススメはし難い.

デスボイス,シャウト,スクリーム,グロウル

…に仮声帯が使われるらしい.というのも私はそこの辺りを全くわかっていない.
声帯を使う?仮声帯を使う?音の高い低いは?掠れながら息を抜く?…といった感じでとにかくよくわかっていない.
いずれにせよ確実に喉に負担がかかるためボイストレーナーですらオススメしない代物であることは間違いない,挑戦する際は完全に自己責任でお願いしたい.

自分なりの考え方として

後述する声帯筋の動作の1つであるボーカルフライに関連して言えば,ボーカルフライが声帯のみを硬く閉めて震わせる方法であるのに対して,スクリームはむしろ声帯と仮声帯の閉め方のバランスを調整してノイズを作る方法ではないかと推測している.
これはあくまでダミが入った吐息を出した時の私の感覚であり,正しいスクリームであるとは限らないし出せる人に聞いた方が間違いなく良いだろう.
ただゾンビボイスであると言われればその通りではあるが,動作の中身は全く対照的である上に,ボーカルフライとは違い歌唱的に正しい発声とは真逆を行くであろうことは想像に容易い.
せめてボーカルフライが自由自在に出せる程度のレベルにまで到達してから手を出しても遅くは無い,そういう意味で人間を辞めた人間による発声手法であると割り切った方が良いと思われる.

喉頭筋についてまとめ

喉頭の内側にあるってこと

何が基準なのか知らんけど…
つまり外側にあれば外喉頭筋になる,ちなみに文献によっては輪状甲状筋が外喉頭筋の扱いを受けてる場合があったりする,コイツだけ声帯に直接働きかけないからしょうがないね.

色々と面倒な奴

喉頭周りは高度な発声の機能を得る代わりに高度な不随意反射を構築しているため,コイツに障害が起きると場合によっては割と致命的な状態に陥る.
腫れる程度ならまだしも高度な運動障害となるとキツい,理由は様々であろうが必ずしも生存に不可欠な器官では無いため切除されることが多い.

しかしそれでも呼吸に係る防御機構の最重要を担っており,大切にするに越したことはないだろう.

喉頭の敵

乾燥

常日頃からマスクつけろ,そして部屋を除湿しすぎるな,お前が不快でも喉は快適なんだ,喉のためにそれくらい我慢してみろ
あともし酷使して何らかの異常を感じたら然るべき対策をしろ,というかなるべく発声をやめて口を噤んだほうが今は身のためだ

マスク

いつもの,ここ最近で波乱を起こしたアレ,ぶっちゃけ保湿できれば何でも良い

のど飴

殺菌作用を期待するならどうぞ

スチーマー

鼻腔・口腔・喉頭を保護できる優れもの,本来は花粉症対策や風邪予防で鼻腔と口腔の洗浄と保湿が目的…だがもちろん喉頭の保護にも使える
調べた限りだと生理食塩水対応型の方が良さそう,非対応のものは水道水専用でかえって粘膜が傷むとか言われているっぽい

www.aandd.co.jp

買おっかなぁ早く買えよ俺…このご時世で売り切れてるかもしれないけどな…

細菌・ウイルス

だからとりあえずマスクつけとけって,あとは外出後はしっかりうがいしろ,うがいの効能を舐めるんじゃあない
地味に口腔における唾液の分泌も割と重要だからしっかり口を動かせ,唾液分泌量の多さはすなわち健康力の強さだ

誤嚥

常によく噛んで喰えばしっかりと飲み込む癖がつく,飯は味って食べろ
ちなみに発声訓練をするだけで誤嚥悪化に伴う誤嚥性肺炎が予防できるぞ,老後のために今の内から訓練しておこうな

飲酒・喫煙

趣味趣向の範囲だからまぁ止めはしないが,生涯に渡って背負うことになる相応の負担とリスクだけは覚悟するべきだろ
そもそも歌が大好きなのに酒焼け声や喉頭癌になりたい人間なんていないでしょ…えっいるの?私は怖くてもう飲酒喫煙できないねぇ…になっちゃったよ?
それとも創作にはアルコールが必要なのかしら…ううむ…

そういえばごく稀に特殊な人間がいますね,飲酒ロシア声優さんとか飲酒弾幕神主さんとか,後者はともかく前者はどうして声が潰れないのか不思議でたまらまい,アレはとんでもない労力で喉をケアしているとしか思えないので,一般人があの生き方を真似するのは無理だと思います.
いやアレは喉スチーマーとかだけで何とかなるとは本当に思えない,謎すぎる…

栄養と再生の欠如

負荷をかけたら栄養を補給して休ませる,これがトレーニングの原則な,十分に回復するまであんたのトレーニングは一時中止だ
あとチートデイじゃないけどたまには発生しない日だってあった方が良い,自分の耳をリセットして声の録音データをチェックしよう,自分で聞こえる声は割と…いや全くアテにならないので…

発声の要

  • 輪状甲状筋
  • 甲状被裂筋
  • 後輪状被裂筋
  • 横被裂筋
  • 斜被裂筋
  • 外側輪状被裂筋
  • 声帯靭帯

暗記しましょう,さぁご一緒に

  • 輪状甲状筋
    • 声帯を伸ばす
  • 甲状被裂筋
    • 声を作る
  • 後輪状被裂筋
    • 声門を開く
  • 横被裂筋
    • 声門を閉じる
  • 斜被裂筋
    • 声門を閉じる
  • 外側輪状被裂筋
    • 声門を
    • コイツに限っては「狭める」の方が適切かも…
  • 声帯靭帯
    • ありのままの性質を受け入れよ†

次回③

喉頭のトレーニングについて扱いたいが…
今回は思った以上にかなり長くなってしまった,てへ★